集光と結像は違うという件
レーザ光の集光と蛍光像の結像の違いについてもう少し考えてみましょう。下図の①は典型的な1:1のリレー光学系の構成です。ここでは前に議論したレンズの収差はないものとします。左側の第一レンズ(コリメートレンズ)の焦点位置にレーザ光のビームウェストを合わせると、左側の第二レンズ(集光レンズ)によりカメラ内のCMOSセンサ上にレーザ光が集光し、左側のビームウェストの形状が再現、測定されます。赤い線はレーザ光の火線で、ビーム径よりももっと外側のビームの外側境界(4σぐらい?)を示したものです。通常はこの2枚のレンズの間に、NDフィルタやビームサンプラ(サンプラの場合は、跳ねた光の方を使うため光学系が折れ曲がります)を入れてレーザ光を減光してセンサ上に集光します。
さて、ここで2枚のレンズの間にレーザ光を遮るように火線と同じ大きさの遮光板を置いてみましょう。当然レーザ光が遮断されて、CMOSセンサ上では何も信号が出ません。当たり前やん。
次に①の左側の第一レンズの焦点位置に蛍光板を置いてみましょう。下図の③です。FIT式の基本構成になります。レーザ光はビームウェスト位置で蛍光板に吸収され、蛍光板内に同じ強度プロファイルの蛍光像が発生(発光)します。蛍光は360度の方向に放射されますが、その一部の光が、①とおなじように第一レンズを通りCMOSセンサ上に集光、結像します。蛍光像とCMOSセンサ上の像は1:1で相似ですので、結果的にレーザ光のビームウェストのプロファイルが間接的に測定できます。なお、蛍光はレーザ光よりも波長が長く、しかもインコヒーレントです。
ここで④のように、②と同じサイズの遮光板をレンズの間に入れてみましょう。そんなことをしたら②と同じように信号無くなるやんけと思いきや、ちゃんとCMOSセンサ上にはプロファイルが現れます。しかも全体の強度が落ちただけで蛍光像と相似ですので、この状態でもレーザのビームウェストが測定できます。もともと③の状態でも、360度広がっている蛍光の一部を取り出して結像しているだけですから、それがさらに遮光板で一部欠けても影響は少ないわけです。
①②のレーザ光直接の場合、1方向だけに光路が有り、それ以外では光はありません。さらにレーザ光は空間的に波面のそろったコヒーレント光ですので、その波面上の情報が一部でも途切たりすると、プロファイルは元と変わってしまいます。②ではわかりやすくするため完全に遮光しましたが、一部でも遮光されるとCMOSセンサ上に観測されるプロファイルは、左側のビームウェストとは相似ではない、違うものになります。リレー光学系中に遮光板を入れることは実際にはありませんが、結構やっちゃってると思うのがレーザ光のNAが第一レンズのNAより大きい場合で、第一レンズの外側にレーザ光を取りこぼすことになります。(実際にはNAより広い、かなり外側まで光ってありますよね。)その時点で集光したビーム径は、元のビーム径よりも小さくなります。一方で③④の蛍光はレーザ光を吸収した段階でレーザ光のNAの情報はなくなりますので、その後の第一レンズのNAは気にする必要がありません。(結像の明るさ、S/N、解像度や分解能には関連します)
さて、FIT式の特徴を人に説明をする際によく例えるのが、まぐろの遠洋漁業です。まぐろを遠洋で釣り上げて生け簀に入れて持ち帰ろうとすると、まぐろは生きていますから生け簀の中で泳ぎ回り、暴れて壁にぶつかったりして、漁港に着く頃には、生きてはいるものの形がすっかり変わってしまいます。(実際の漁業では、いろいろ工夫がされていると思いますが)一方、釣り上げたその場で締めて冷凍すれば、漁港についても死んでいますが形は釣り上げたままが維持されています。FIT式では、蛍光板において生きたレーザを締めて(波面(コヒーレンス)や放射角、偏光などの情報を失うこと)、強度分布の情報だけ(像)に変換しています。生きたレーザをそのままCMOSセンサまで形を変えず運ぶことは難しいのです。
なお、③で蛍光板の代わりに拡散板を入れるビームプロファイラもあります。散乱光はインコヒーレント光ですが、蛍光と違い発生方向に異方性があり、また発生した散乱光は外に出るまでに拡散板の中で何度も散乱を繰り返すので散乱像は蛍光像に比べ大きくボケます。またレーザ光と散乱光は波長が同じなのでFIT式のように波長で分離が出来ず、レーザ光と同じ光軸方向から観測することが出来ないので、構成も複雑になります。拡散板を使わず空気分子との自然なレイリー散乱光を測定するプロファイラもありますが、散乱光が非常に弱いので逆にレーザ光の光強度がかなり強くないと測定が出来ず、またレーザ光に対して90度横からの観測なので、断面プロファイルは測定できません。
さて、これは余談ですが、私が中学生の頃、何か流星群の話題で天文ブームがありました。親にねだって反射式の天体望遠鏡を買ってもらったのですが、望遠鏡の入り口から中をのぞくと凹面ミラーから反射した光を接眼レンズに導くための小さな平面反射ミラーが、凹面ミラーの手前、中央に中空で取り付けてあって、上から見ると凹面ミラーの中央を大きく塞いでいます。ありゃ、これっじゃあ真ん中が塞がっているから星見えないじゃん、と子供ながらにすごく不安になったことを思い出します。しかし実際にはちゃんと星や月が見えたので、逆にすごく不思議だった。多分当時学校の先生に聞いても分からなかったかもしれませんが、インコヒーレントの結像だから上図④のように真ん中が塞がっていても問題なかったですね。これを理解したのは大人になって光学の勉強をしてから、いや、実はごく最近です。