同じ光ファイバーでも、出射されるレーザビームのプロファイルは違うという件

同じコア径、NAの光ファイバーでも、マルチモードファイバーでは出てくるレーザビームのプロファイルは違います。それは光ファイバーの長さが比較的短い場合、入れた光のNAが保存されるからです。ファイバーから出る光のプロファイルが違うということは、すなわちそれをレンズで集光したビームウェストのプロファイルも違うということです。下の図をご覧下さい。全く同じレーザ光源から出たレーザ光を光ファイバーに入射しますが、この時光学系の設計として大きく二つの選択があります。

①は「NA優先」と私が以前務めていたレーザ加工機メーカ内で呼んでいたもので、ファイバー端に集光するレンズの焦点距離fLを長くして、できるだけNAを小さくする構成です。ご存じのように集光ビーム径とNAは積が一定ですので、NAを小さくするとファイバー端での集光ビーム径が大きくなります。もちろん集光ビーム径はコア径Φ600μm以下でないといけませんが、組み立て時のトレランスやビームの周辺光による発熱が問題にならない程度(Φ400μmくらいでしょうか)に大きくします。この構成の特長は、ファイバー入射端でのビームが大きいので、そこでの光ダメージを避けることが出来ること、NAが小さいのでファイバー中での伝搬ロスを小さく出来る、またファイバー伝搬後のレーザ光のビーム品質の劣化を最小限に抑えることが出来ます。

一方②は「ビーム径優先」と呼んでいたもので、逆にファイバー端に集光するレンズの焦点距離fsを短くして、できるだけビーム径wを小さくする構成です。wを小さくするとファイバー端に入射するビーム光のNAは大きくなります。もちろん集光ビームのNAはファイバーのNA0.22以下でないといけませんが、クラッド伝搬モードが出ない、クラッドを突き抜けた光による端面周辺でのファイバーの発熱が問題にならない程度(0.16くらいでしょうか)に大きくします。この構成の特長は、焦点距離が短いので光学系全体をコンパクトに出来ること、ファイバー入射端でのビームが小さいので、組み立て位置合わせが簡単なことでしょう。

さて、こうして入射した光は、マルチモードファイバーのコア内をジグザグに反射しながら進んでいきますが、反射(入射角=反射角)の条件を考えれば、NAは入射時そのまま保存されてファイバーから出て来てしまう可能性があることが想像でき、実際光ファイバーの長さが数メートルと短ければそのようになります。(ファイバーの長さより引き回しに強く依存します)ファイバー出力端では伝搬したレーザビームはコアいっぱいに広がっていますから、出射端でのビーム径は共にΦ600μmですが、①では出射NAが例えば0.1、②では0.2となります。これらを同じ焦点距離fのレンズペアで再度集光した場合には、ビームウェストは左のようなプロファイルになります。1/e2のビーム径はほぼ同じですが、内部のプロファイルはかなり違います。②の方がNAが大きいからピークが細くて、よく絞れているんじゃないのと思われる方もいるかもしれませんが、大きな肩がありビーム径はほぼ同じです。右の入射端のようなプロファイルなら細く絞れているということになりますが。むしろ①の方がビーム品質が2倍高く、同じNAの光学系で絞れば1/e2のビーム径は半分になります。ちなみに左のプロファイルではコア径600μmを超えてビームが裾を引いていますが、これが主に後段の集光光学系の収差によるものです。これについては別に書きます。

さて、1/e2ビーム径が変わらないのならば、中のプロファイルの違いなどそれほど気にしなくてよいのではと思われるかもしれませんが、用途によっては大きな問題となります。例えば固体レーザの端面励起の場合、中のプロファイル形状が非常に固体レーザ特性を左右します。②のプロファイルで励起した場合、中央に高いピークがあるのでそこを中心に狭い領域でレーザ発振が始まってしまい、発振閾値が低いのはよいのですが、かなりの励起エネルギーが狭いレーザモードの外に分布してしまうためスロープ効率は非常に低くなります。固体レーザ励起以外でも、均一なプロファイルが必要な熱加工などでも影響が出ると思います。

このようにマルチモード光ファイバーからの出射光は、入射光の影響が残り同じではないという話をしました。光ファイバーの出力光を板や壁などに当てて、IRビュアーで観察すれば、無数の縞模様や濃淡が見え、単調なプロファイルではないことが分かります。しかもその形状はファイバーを少し揺らすだけで敏感に大きく変化する様子も見えると思います。しかし、ファイバーにある操作を施すことで、コア径とNAで決まる一定のプロファイルに近づけることが出来ます。ファイバーを局所的に少し強く曲げること、または緩やかでも長い距離にわたって曲げることで、ファイバー内を伝搬する光の反射の関係が崩れ、様々な角度の伝搬光が発生した結果、最終的にNAによって制限された光のみが特定の割合で伝搬する「全モード励起」状態になります。出射のプロファイルはフラットトップに近くなります。なお、光ファイバーは曲げる限界の曲率が決まっていますのでそれを超えないように注意します。また、主に通信用ですがファイバーを曲げる専用のモードスクランブラーという器具も市販されています。ただ、一般の加工用レーザのマルチモードのデリバリーファイバーでは、損失も出ますので途中でそのような全モード励起に変換することは無く、メーカ独自の知見、設計方針もありますので、①と②の間の特定の条件で入射しているのだと思います。