ビーム測定におけるリレーレンズは、その場では直接測定が出来ない位置や高い光パワーのビームプロファイルを、レンズを用いて測定できる位置まで転送、別の位置で再現したり、転送の途中で光を測定できるパワーまで減衰させることで、直接測定出来ないビームプロファイルを擬似的に測定する手法です。基本形は2枚のレンズを用いて、測りたい集光点を通過したレーザ光を最初のレンズでコリメート、2枚目のレンズで集光(再現)させ、その集光点でビームプロファイルを測定します。通常は同じ焦点距離のレンズ2枚をペアで使用し、1:1で転送、ビームを再現しますが、2枚目のレンズの焦点距離を長くし、ビームを拡大することで、カメラのピクセルサイズとの関係から、1:1では正確な測定が難しい微小なビーム形状も、拡大して測定することが出来ます。2枚のレンズの間の光はコリメートされているので、そこにビームサンプラやNDフィルタなど挿入して減衰すれば、挿入による収差の発生を最小限に抑えることが出来ます。今回ABCD則(光線行列)を用いて簡単な光線追跡を行い、リレーレンズのレンズを動かした(動かしちゃった)際の得られるビームの挙動について検討してみました。計算は近軸近似で、レンズの厚み、収差は無視します。図では平凸レンズの平面にレンズの主面があるように書いていますが、分かりやすくするためで、レンズ形状も無視してください。
【基本形】焦点距離f1,f2の2枚のレンズf1、f2を用い、測りたい集光点(z=0)のビーム径w0に対し、z1=f1の位置にレンズf1、そこからLだけ離れた位置z2にレンズf2を配置し、レンズf2から距離f2離れた位置z0にCMOSセンサ受光面を配置します。基本形はL=f1+f2です。この時、CMOSセンサ上には、ビーム径f2/f1*w0のスポットが集光(再現)されます。
(1)最初のf1レンズだけを集光点(z=0)方向にΔzだけ近づけると、CMOSセンサ上のビーム径は、集光点z=0からΔz(対称なのでどちら方向でも同じ)離れたビーム径w1のf2/f1倍になります。
(2)最初のf1レンズだけを集光点(z=0)方向からΔzだけ離すと、CMOSセンサ上のビーム径は、やはり集光点z=0からΔz(対称なのでどちら方向でも同じ)離れたビーム径w1のf2/f1倍になります。
(3)f1レンズとf2レンズを同時に、集光点(z=0)方向にΔzだけ近づける(リレーレンズがペアになって固定されている場合)と、CMOSセンサ上のビーム径は集光点でなくなり変な値(f1,f2、Lの複雑な値)になります。ただし、f1=f2の場合のみ、CMOSセンサ上に集光点が維持され、近づけると連続的に拡大(w0+α)、図にはありませんが、レンズペアを離すと連続的に縮小(w0-α)します。(今回の光線の計算では集光点でのビーム径は0となり計算できませんが、私的な知見に基づいています。)
(4)f1レンズとf2レンズ、CMOSセンサをすべて同時に、集光点(z=0)方向にΔzだけ近づける(リレーレンズとセンサがセットになって固定されている場合)と、CMOSセンサ上のビーム径は、集光点z=0からΔz(対称なのでどちら方向でも同じ)離れたビーム径w1のf2/f1倍になります。
(5)f1レンズとf2レンズ、CMOSセンサをすべて同時に、集光点(z=0)方向からΔzだけ離す(リレーレンズとセンサがセットになって固定されている場合)と、CMOSセンサ上のビーム径は、これも同じく集光点z=0からΔz(対称なのでどちら方向でも同じ)離れたビーム径w1のf2/f1倍になります。
(4)と(5)は、それぞれ(1)と(2)でf2とCMOSセンサのペアをΔzだけ同方向にずらしただけなのですが、f1,f2間のビームがコリメート状態でないにもかかわらず、CMOSセンサ上のビーム径が変わらないのは解せませんが、Mathematicaによる単純な光線行列の計算は間違っていないと思います。計算された径は同じですが光線ベクトルの勾配は違っているので、CMOSセンサの面が特異面になっているのだと思います。CMOSセンサ面へのビームの勾配はLにも依存するので、センサ位置だけを動かしてしまうと、どこの何を見ているのか分からなくなります。ただし基本形でCMOSセンサだけΔz動かした場合、CMOSセンサ上のビーム径はf1/f2*w1になります。(f1とf2が逆になります。)なお、上記の計算は光学系を非常に単純化したもので、誤差を含んだ目安にはなると思いますが、実測のデータと照合させるには、zemax等光学設計ソフトによる収差を考慮した光線追跡が必要です。また以前も述べましたが、安価な両凸、平凸レンズなどを用いるとリレーの途中で大きな収差が発生し、正しいビーム形状が維持、測定できません。できるだけ非球面レンズを使用してください。これについては、エドモンドオプティクス様のWEB「アプリケーションノート/光学アプリケーションの実例/アプリケーション2 正しいレンズの選定」にリレーレンズの種類による収差の大きさ、影響について、直感的に分かりやすい説明があります。また途中で減衰させる場合、NDフィルタ等による熱レンズの影響も考慮する必要があります。最初のレンズf1のNAは、ビームを取りこぼさないよう集光レンズのNAと同じかそれ以上にする必要があります。もちろんリレーレンズ以前の問題として、加工(集光)光学系に収差の大きなレンズを使った場合、測定自体が正しくても、期待されるビーム形状とかけ離れた結果となります。